ふくしま桜旅

福島県内の桜の名所・名木を紹介します

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残雪の安達太良山を背景に咲く一本桜。“名もなき桜”が地域の象徴に

桜の手入れを行っている保護団体の方、桜番付を作成している団体など、福島県内の桜にさまざまな形で関わる人を取材しました。

今回は、二本松市にある「中島の地蔵桜」を地域のシンボル的存在にまで育て上げた「中島の地蔵桜を守る会」の皆さんの取り組みを紹介します。

<目次>

松の木に隠れていた桜を2009年から有志で整備

一本桜の名木が多数点在する福島県二本松市の郊外、旧東和町針道地区。残雪の安達太良山を背景に、枝を大きく広げて樹齢約200年のベニシダレザクラ「中島の地蔵桜」が艶やかに咲き誇ります。根元には延命地蔵が祀られ、ひと足早く水を張った田んぼに美しい姿を映しています。

今では二本松市を代表する名木の一つとして県内外から多くの観桜客が訪れている中島の地蔵桜ですが、実はわずか十数年前まで地元住民にも存在を知られていない名もなき桜でした。

「桜の前に松の木が2本あって桜が隠れていたんです。でも、松くい虫に食われてしまったので松の木を切りました」。そう話すのは桜の所有者で、「中島の地蔵桜を守る会」会長の杉内栄さんです。

「姿を現した桜を見たら形がいいし、これで地域おこしができるんじゃないかと思いました」と振り返るのは、中島の地蔵桜を守る会の初代会長を務めた鴫原俊郎さん。そこで2009年春から杉内さんと杉内さんの奥様の正子さん、鴫原さんの3人で桜の周辺の環境整備を始めたといいます。

中島の地蔵桜という名前をつけたのも鴫原さんです。かつてこの場所には川俣町山木屋方面へ至る小道が通っており、行き交う人や牛馬の安全を願ってお地蔵様や馬頭観音が祀られていました。

「私が子どもの頃にも桜の下に地蔵様があったから、『地蔵桜にしたらいいんでねえか』と。ここの字名が中島だから、頭に付けて『中島の地蔵桜にすっぺ』となりました」と鴫原さん。命名を受けて杉内さんが桜の根元に新たに延命地蔵を祀り、地蔵桜の名にふさわしい現在の姿になりました。

二本松市の協力を得て、2009年春から秋にかけて桜の枝折れを防ぐ支柱の取り付け、桜のそばにあった電話線の移設、ガードレールの撤去などを行い、翌2010年、地元の人たちを招いて初めて観桜会を開催。そして翌2011年に中島の地蔵桜を守る会を立ち上げました。当初約20人だった会員は、現在では約100人にまで増加。地元住民のほか、賛助会員になっている九州在住の中島の地蔵桜ファンの方もいるそうです。

安達太良山が美しく見える朝と夕方がおすすめ

360度どの方向から見ても樹形が美しい中島の地蔵桜。守る会では周囲にレンギョウやしだれ桜を植えたほか、桜の周りをぐるりと歩けるよう小道もつくりました。水を張った田んぼへの映り込みを楽しめるようにしてあり、さらに開花期間中の日没から21時までライトアップも行っています。

写真映えするポイントが多く、写真愛好家の人気を集めていますが、杉内さんと鴫原さんが特におすすめする時間帯は朝と夕方だそう。

「一番いいのは朝。残雪の安達太良山に朝日が当たるのは最高にきれいです。あとは夕方。ガスがかかって見られない日もあるんだけど、夕日で真っ赤になってすごく美しくて、なんとも言えないね。安達太良山と桜というのは三春の滝桜にもないから(笑)、これだけはどこにも負けないですね」(杉内さん)

「桜の周りをぐるりと回って見られることが中島の地蔵桜の最大の特長です。おすすめの時間帯はやっぱり朝。天気が良ければ午前10時ごろまで、桜の上に山が乗っかっているように残雪の安達太良山がくっきりと見えます。それも見上げるんじゃなくて、目線の下にあるのがいい。あとは夕方、日が沈む直前。雄々しい、男らしい一本桜が多いけど、この桜はやさしいのもいいよね」(鴫原さん)

ちなみに中島の地蔵桜は一般的なエドヒガン系しだれ桜と違い、満開の少し前になると葉っぱが出るのだそう。「以前、長野大学の先生に『この桜は珍しい』と言われたことがあります。枝の垂れ下がりも少ないし、ヤマザクラの血が入っているんじゃないかと思います。だからお客さんに桜の説明をするときに『この桜はハーフだ』って言うんですよ(笑)」と鴫原さん。機会があれば、ぜひじっくりと観察してみてくださいね。

地域の象徴として今では多くの人に愛される桜に

今では遠く九州や北海道から訪れる観桜客もいるほど、多くの人に愛される桜となった中島の地蔵桜。守る会では開花期間中「中島の地蔵桜まつり」を開催し、会員が桜の説明をするなどして観桜客をもてなしています。また、地元製菓店のだんごや菓子、玉こんにゃく、甘酒などの販売も行い、好評を博しています。

「この桜で地域おこしをしたい」と考え、初代会長を10年以上を務めてきた鴫原さんはその夢が叶った今、こう願っています。「今は顧問として見守っている立場ですが、以前は365日のうち300日は桜の様子を見に行ったり手入れをしていました。これからもみんなに喜んでもらえる桜として、現役の人たちに守っていってほしいなと思います」

「中島の地蔵桜をもっとみんなに見てもらえるような桜にしていきたいですね」と話す杉内さんは、今後さらに駐車場やバリアフリートイレの整備をしていきたいと目標を語ります。

中島の地蔵桜を守る会では現在、開花期間中以外にも新緑の頃、お盆、秋祭りの時期、年末年始の年5回、桜のライトアップをしています。

「形がいいから、花が咲いているときばかりでなく緑がいいと言って来るお客さんもずいぶんいます。年間を通して結構お客さんは来ますね」と杉内さん。中島の地蔵桜を守る会が大切に守り育ててきた中島の地蔵桜は、四季折々に訪れる人を魅了する針道地区のシンボル的存在となっています。

<2023年3月23日取材>

中島の地蔵桜
■所在地:福島県二本松市針道字中島1-1
■例年の見頃:4月中旬~下旬
■ホームページ

34. 中島の地蔵桜 | 花さんぽ | 二本松市観光連盟

中島の地蔵桜MAP