ふくしま桜旅

福島県内の桜の名所・名木を紹介します

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のどかな田園の丘の上に立つ堂々とした“種蒔き桜”を次世代へ

桜の手入れを行っている保護団体の方、毎年桜の番付表を作成している団体の方など、福島県内の桜にさまざまな形で関わる人を取材しました。

今回は、本宮市にある「塩ノ崎の大ザクラ」の周辺整備などを行う「塩ノ崎の大ザクラ保存会」の皆さんを紹介します。

<目次>

福島県天然記念物指定を機に周辺住民で保存会を設立

福島県本宮市郊外、のどかな田園風景が広がる旧白沢村の丘の上に立つエドヒガン「塩ノ崎の大ザクラ」。樹高約18m、幹囲約7mというその名のとおりの大桜で、地元では開花を農作業の目安する“種蒔き桜”として親しまれてきました。

樹齢は約600年とされていますが、実はもっと古い可能性が高いのだそうです。「もう40、50年前から樹齢600年といわれているんです。俺らはもう70歳になるのに桜はいつまでも600年(笑)」。そう笑うのは塩ノ崎の大ザクラ保存会会長の石橋今朝夫(けさお)さんです。

「根回り1mで樹齢100年といわれています。この桜は7m以上あるから、樹齢700年以上になるんじゃないかと話しているんですよ」

塩ノ崎の大ザクラ保存会は2005年、大ザクラが福島県の天然記念物に指定されたことを機に周辺住民が設立しました。

「桜の根元に6軒のお墓があるんですが、元々はそのお墓の家の人たちが草を刈ったりして管理していました」と石橋さん。

お墓の中には宝暦や天保の文字が刻まれている墓石もあり、江戸時代からここにあることがわかります。

「昔は今より花が咲くのが遅かったから、うちの親たちの代は種蒔きが終わる頃に花見をやっていたんです。提灯をつけたりなんだりしてね」と話すのは、桜の根元にお墓がある6軒のうちの1軒で、保存会の初代会計を務めた石川英則さんです。

「子どもの頃は、横に伸びた桜の枝に登ったりして遊んでいました。今は大ザクラが一本だけど、昔はもう一本桜の木があったし、ケヤキとかイチョウとかいろんな木が生えていて森みたいだったんです。夏は涼しかったんですよ」と、石川さんは懐かしそうに振り返ります。

30年ほど前から大ザクラ以外の木を切るなどの周辺整備を始め、10年くらいかけて現在のような一本桜の景観になったといいます。

開花期間中は手打ちそばの提供やライトアップを実施

現在は大ザクラの近くに住む13軒の皆さんが保存会の会員となり、一年を通して草刈りや施肥などの環境整備を行っています。

開花前には周辺の道路沿いに案内看板やのぼり旗を立てたり、大ザクラのそばにあるお休み処の片付け、草刈り、遊歩道の板の補強などを行い、観桜客を迎える準備をします。

お休み処は、10年ほど前に廃材などを持ち寄って会員の皆さんが手づくりしたそう。「会員の中には元大工や現役の電気屋がいるから、こうしたことはお手のものなんです」と石川さん。開花期間中の18時から21時まで行うライトアップの準備も、電気屋さんがいるので安心だと笑います。

保存会では大ザクラの近くの畑でそばを栽培しており、開花期間中はお休み処でそのそば粉を使った二八そばを提供しています。20年以上前から趣味でそば打ちをしているという石川さんはじめ会員が手打ちする本格的なもので、おいしいと評判です。お時間がある方は桜を愛でながら味わってみてくださいね。そのほか、そばの乾麺やキュウリの漬物などの地元産品も販売しているので、こちらもぜひどうぞ。

ちなみに大ザクラの周辺には菜の花が咲き乱れていますが、これは保存会の皆さんが種を蒔いたものではなく自然に生えてきたものだとか。「種がこぼれて、また来年咲くという形です。自然にまかせているので、年によって『今年は見事だ』というときと『今年はちょっと少ないな』というときがあるんです」と石川さん。

大ザクラの東側に見事な菜の花畑ができる年もあり、絶好の撮影スポットとなります。

おすすめの時間帯は朝と夜。満月と桜の共演が楽しめる年も

開花期間中は保存会の皆さんがお休み処に常駐しており、大ザクラや周辺の桜の案内なども行います。「見頃の時期は日本全国からお客さんが来ます。遠いところでは沖縄や北海道からも来ていますよ。皆さん、『隠れた穴場だ』と言ってくれますね」と石橋さん。

「『三春滝桜よりこっちのほうが立派だ』という人もいます(笑)。ここの桜は下から横に伸びている枝以外につっかえ棒(支柱)がないし、東西南北全部の方角から写真が撮れるから喜ばれているんですよ」と、石川さんも誇らしげに話します。

おすすめの時間帯や見どころを尋ねると、大ザクラのすぐ近くに住むお二人ならではのポイントを教えてくれました。

「おすすめは朝と夜のライトアップ。太陽がのぼってきて、朝日が当たったときは花の色がうんと濃く見えてすごくきれいなんですよ」(石橋さん)

「桜の満開と満月が重なる年があるんです。時間と見る角度によって、花が咲いた枝と枝の間の空間に満月がはまって見えることもあるんですよ。毎年、今年の満月はいつかなと気になりますね」(石川さん)

塩ノ崎の大ザクラ保存会会員の本田則雄さん撮影

今年(2024年)の満月は4月24日なので満開は過ぎているかもしれませんが、来年(2025年)の満月は4月13日なので、タイミングが合えば満月と満開の大ザクラの美しい共演が楽しめるかもしれませんね。

「塩ノ崎の大ザクラは“地域の宝”」だと口をそろえる石橋さんと石川さん。「俺らは桜と一緒に育ってきているようなものだから、自分の人生と一緒です。花が終わっても周りの環境整備をしなくちゃならないから、みんな常に桜、桜となっています。今後も桜の環境を大切に守っていきたいですね」と石橋さんは話します。

日本全国から観桜客が訪れる一方、地元・本宮市民でも塩ノ崎の大ザクラの存在を知らない人が少なくないそう。「三春滝桜に行く途中に看板があったから来てみた。こんなに立派な桜があるなんて初めて知った」と驚かれることも多いといいます。

塩ノ崎の大ザクラを次世代につなげていくためにも、地元にもっとPRして大ザクラの素晴らしさを知ってもらい、保存会の後継者を育てていきたいと未来を見据えています。

<2024年3月17日取材、3月24日周辺整備撮影>

塩ノ崎の大ザクラ
■所在地:福島県本宮市白岩字塩ノ崎
■駐車場:あり
■例年の見頃:4月中旬
■ホームページ

塩ノ崎の大ザクラ - 本宮市公式ホームページ

塩ノ崎の大ザクラMAP