ふくしま桜旅

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市街地に残る樹齢300年以上の希少なエドヒガンの群生を次世代へ

桜の手入れを行っている保護団体や桜番付を作成している団体など、福島県内の桜にさまざまな形で関わる人を取材しました。

今回は、須賀川市にある「お諏訪の杜(おすわのもり)エドヒガン桜」の保存活動に取り組んでいる「お諏訪の杜エドヒガン桜保存会」の皆さんをご紹介します。

<目次>

明治の大火を免れた12本のエドヒガンの古木を守るため保存会を結成

須賀川市の中心市街地、諏訪町に鎮座する奥州須賀川総鎮守「神炊館(おたきや)神社」。「奥の細道」の旅の途中、松尾芭蕉も参詣した歴史ある神社で、地元では「お諏訪さま」と呼ばれ親しまれています。

この神社の社殿裏手に広がる「お諏訪の杜」に、樹齢300年以上のエドヒガンの群生地があります。それが「お諏訪の杜エドヒガン桜」です。

神社横の駐車場に車を停め、ウッドチップが敷き詰められた小道を進むと、正面にエドヒガンの群生が見えてきます。

その数なんと12本。樹高25mを超える巨木が多く、スラリと背の高いエドヒガンが立ち並ぶ様は壮観です。桜の下に立って見上げると濃いピンク色の花枝が四方から伸びて天蓋をつくり、群生ならではの美しい光景が広がります。

エドヒガンの一本桜は福島県内各地にたくさんありますが、群生地はほとんどなく、このお諏訪の杜エドヒガン桜と郡山市中田町の「龍ヶ岳(じょうがだけ)公園」くらい。しかもこちらのように市街地にある群生地は全国でも少なく、とても希少なスポットなのだそうです。

「これだけのエドヒガンが自然に育つことはなく、誰かが植えたはずですが、いつ誰が植えたのかは記録に残っていないので、スタートがはっきりわからないんです。ただ、樹齢300年以上の桜がこれだけ残っていることは事実なので、平成18(2006)年に須賀川商工会議所を中心として保存会を立ち上げました」

そう教えてくれたのは「お諏訪の杜エドヒガン桜保存会」初代会長で、現在は顧問を務める深谷幸弘さんです。

右からお諏訪の杜エドヒガン桜保存会顧問の深谷幸弘さん、会長の菊地大介さん、副会長の近藤準一さん、須賀川市造園業者協力会会長の西東一守さん

現会長の菊地大介さん、副会長の近藤準一さんが、歴史を含めてさらに詳しく解説してくれました。

「天正17(1589)年の伊達政宗による須賀川城攻撃の後、この地を統治した蒲生氏郷がこの辺りに防風林を植えました。神炊館神社は元々別の場所にあり、現在地に移ってきたのは慶長3(1598)年です。ここのエドヒガンは樹齢300年ですから、その後に植えられたんでしょうね」(菊地さん)

「明治26(1893)年に須賀川の街で大火があり、神炊館神社も燃えてしまいました。おそらくその時に歴史的な資料も失われたのだと思います。資料がないので推測でしかありませんが、先人がお金を出し合ってエドヒガンを植えたとか、そういうことがあったのではないでしょうか」(近藤さん)

幸いエドヒガンの群生は大火での消失を免れ、現在までこの地で樹齢をつないできました。

近藤さんによると、かつてこれらのエドヒガンは地元で“種蒔き桜”として親しまれていたのだそうです。

「今はマンションなどが建っていますが、昔この辺りは田んぼが多く、地元の農家はこの桜の花が咲くのを見て稲の種を蒔いていました。桜が満開の時は、ずーっと向こうまで花が見事に咲いているのが見えたんですよ」(近藤さん)

 

地元の文化財・観光資源として、樹勢回復や環境整備などを実施

お諏訪の杜エドヒガン桜が希少な理由は、市街地にある群生地ということのほかにもう一つあります。ここでは純粋なエドヒガンの種子が大量に採取できることから、2000年代の初め頃から「財団法人日本花の会」が種子の採取に訪れるようになったのです。

その種子から育ったエドヒガンは、ソメイヨシノなどの栽培種の桜を育成する台木として活用され、そこから毎年数万本もの苗木が誕生。それらの苗木は、日本国内はもとより海外にも広く配布されてきました。つまりお諏訪の杜エドヒガン桜は、現在世界中で美しい花を咲かせている多くの桜の“母”だといえるのです。

「三春町の三春滝桜は国の天然記念物、古殿町の越代のサクラは福島県の天然記念物に指定されていますが、この12本のエドヒガンも天然記念物に値する価値があると思います。我々保存会はこの貴重な桜を守り、次の世代に引き継いでいくために活動しています」と、近藤さんは話します。

お諏訪の杜エドヒガン桜保存会には現在、 58の法人・団体会員、37人の個人会員が参加。須賀川市造園業者協力会に依頼して、エドヒガンの樹勢回復事業や周辺の環境整備を行っています。

お諏訪の杜エドヒガン桜保存会会員の皆さん

エドヒガンの群生があるお諏訪の杜は元々杉林が広がる鎮守の森でしたが、日当たりと景観をよくするために一部の木を伐採。エドヒガンの幹にからまるツタの除去や枝の剪定、施肥を行い、樹勢回復を図っています。

また、下草刈りや池の清掃、レンギョウの植栽、ウッドチップを敷き詰めた歩道の整備など、お諏訪の杜の環境整備も行っているほか、花が見頃の時期の18時から21時にはライトアップも実施しています。

お諏訪の杜エドヒガン桜を未来につなげるための取り組みの一つとして、種子を採取し、その種子から子孫樹を育てる計画も進めています。

「このエドヒガンを100年後、200年後につないでいければ、素晴らしい文化遺産になると思います。そのつなぎの役目を果たすために今、我々は何をすればいいかを考えています。我々の次の世代になる頃には、ここが観光資源として脚光を浴びるようになっているといいですね」と、近藤さんは未来を見据えます。

一方、今後の課題として菊地さんが挙げるのが、地元・須賀川市でのさらなる知名度の向上です。

「車通りの多い道路から少し奥まった場所にあって目立たないので、市民の皆さんの中にもお諏訪の杜エドヒガン桜のことを知らない人がまだまだ多いのが現状です。皆さんにもっと知っていただき、貴重な文化財だという意識を持っていただくことが必要だと考えています」

また近年、国内外で山林火災が相次いでいることにも危機感を抱いています。

「お諏訪の杜エドヒガン桜を次世代に残すためには、生育を守ると同時に火の手から守ることも大切です。上野など全国の桜の名所の多くは近年、火気厳禁になっています。お諏訪の杜も火気厳禁にできないか、消防署に相談してみようと考えているところです」(菊地さん)

全国でも珍しい、市街地に残る樹齢300年以上のエドヒガンの群生。須賀川市が誇る貴重な文化遺産として、お諏訪の杜エドヒガン桜保存会の皆さんはこれからも大切に守っていくつもりです。

<2025年4月6日取材>

お諏訪の杜エドヒガン桜
■所在地:福島県須賀川市諏訪町45-1 神炊館神社敷地内
■例年の見頃:4月中旬
■ホームページ

「境内案内」奥州須賀川総鎮守 神炊館神社 福島県須賀川市

お諏訪の杜エドヒガン桜MAP