ふくしま桜旅

福島県内の桜の名所・名木を紹介します

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亡き恩人の想いを継いで大切に守る、裏磐梯の愛らしいオオヤマザクラ

▲桧原の一本桜を守る会・渡辺有美さん撮影

桜の手入れを行っている保護団体や桜番付を作成している団体など、福島県内の桜にさまざまな形で関わる人を取材しました。

今回は、北塩原村にある「桧原(ひばら)の一本桜」の周辺整備をしている「桧原の一本桜を守る会」の皆さんを紹介します。

<目次>

お世話になった人の想いを引き継ぐため、有志で「守る会」を結成

森の中に大小数百の湖沼が点在し、景勝地として親しまれている裏磐梯。「桧原の一本桜」は、その中で最大の湖・桧原湖の北岸から林道をさらに北に進んだところに咲くオオヤマザクラです。標高が高く春が遅い裏磐梯の中でも、最も遅く咲く桜の一つとして知られています。

新緑の山に囲まれてポツンと立つ姿、芽吹き始めた木々の若い緑と濃いピンク色の花のやわらかなコントラスト、全体的に丸みを帯びた愛らしい樹形。すべてがとても絵になり、花の時期には県内外から多くの写真愛好家が撮影に訪れます。

▲桧原の一本桜を守る会・渡辺有美さん撮影

一本桜周辺の草刈りを行い、この桜を大切に守っているのが「桧原の一本桜を守る会」の皆さんです。会の結成は2019年。それまで一本桜の管理をしていた方が亡くなったことがきっかけだったそうです。

「私が初めて桧原の一本桜を見に来たのは15年くらい前です。そのころは高島博さんという方がここでそば畑をやっていて、桜の管理もしていました。私が『のどかでいい桜だな』と写真を撮っていたら、高島さんがわざわざお茶を持ってきてくれたんです。

話しているうちに『ここで取ったそばを食べていけ』となり、近くの別宅に招いてくれました。それから付き合いが始まり、10年くらい前からは草刈りを手伝うようになりました」

そう教えてくれたのは、桧原の一本桜を守る会会長の松本一司さんです。

守る会幹部の橋本勝美さんと渡辺有美さんは、10年ほど前に一本桜の写真撮影に来て高島さんと知り合いになりました。それ以来、高島さんにとてもお世話になったと懐かしそうに振り返ります。

「守る会のメンバーは全員、高島さんの別宅にお邪魔してそばをご馳走になったり、一本桜と星を撮影するときに泊めてもらったりしていました。高島さんはそれが楽しみだったみたいですね」(渡辺さん)

「高島さんは一本桜の手入れをして、みんなに見に来てもらうのがうれしかったんだよね。家に来てもらって、自分で打ったそばをご馳走したりするのも好きだったんだと思います」(橋本さん)

2019年に高島さんが亡くなると、高島さんにお世話になっていた写真愛好家の有志が集まって桧原の一本桜を守る会を結成。所有者の方の許可を得たうえで、一本桜の手入れを引き継ぐことになりました。

「高島さんのお宅にいらしていた仲間たちに誰かが声をかけたというより、みんなが自主的に集まった感じですね。高島さんにお世話になったから、今度は自分たちが桜の手入れをしなくちゃという思いでした」と渡辺さん。その後facebookで知り合いに声をかけて会員を募り、現在は福島県内に住む15人ほどが守る会に参加しているそうです。

桧原の一本桜を守る会では毎年9月下旬から10月の間に一本桜周辺の草刈りを行っています。2024年は雨が降る中、郡山市田村市から9人の会員が集まり、持参した草刈機でススキなどを刈りました。

▲桧原の一本桜を守る会・渡辺有美さん撮影

「雪である程度倒れるけど、放っておくと草が背丈以上に伸びて桜がダメになってしまいます。大変だけど、桜のために刈ってやらないとダメなんです」と橋本さん。お世話になった高島さんへの恩返しの意味も込め、一本桜の周辺整備に汗を流しています。

▲桧原の一本桜を守る会・渡辺有美さん撮影

 

美しい星空と一本桜のコラボを撮影できる夜がおすすめ

桧原の一本桜の写真撮影に訪れ、高島さんを介して知り合った松本さん、橋本さん、渡辺さん。毎春撮影に訪れる一本桜の魅力について、橋本さんはこう話します。

「オオヤマザクラは、福島県内では会津にしか咲いていない桜です。中通り浜通りにもあるヤマザクラは、花が咲いたときはピンク色だけど新芽が出てくると白っぽくなる。でも、オオヤマザクラの花はずっとピンク色なので、それが魅力的ですね」

▲桧原の一本桜を守る会・渡辺有美さん撮影

おすすめの撮影時間について尋ねると、3人とも「夜」ということで意見が一致。渡辺さんが「なんて言ったって夜だよね」と言えば、松本さんと橋本さんも「夜だね」と口を揃えてうなずきます。

「こんなに真っ暗なところで、これだけ星が見えて、これだけいい桜がある場所はなかなかないと思いますよ」と渡辺さん。撮影する方角や時間帯によって一本桜の背景に北極星や天の川を入れることができ、星の撮影に最高のロケーションなのだといいます。

▲桧原の一本桜を守る会・渡辺有美さん撮影

▲桧原の一本桜を守る会・渡辺有美さん撮影

ただし、この一帯はクマが出没する恐れがあるので、撮影の際は万全の対策が必要だと皆さん。携帯電話も圏外なので、十分ご注意くださいね。

 

桧原の一本桜は人の輪が広がる“憩いの場”。これからも守り続ける

毎年春になるといち早く桧原の一本桜を訪れて開花状況を確認するという松本さんは、一本桜を“憩いの場”だと表現します。

「ここに来ると久しぶりに会う人もいっぱいいて、『元気か?』となります。そういう意味で、私にとって桧原の一本桜は憩いの場ですね」

渡辺さんも深くうなずいて続けます。

「私たちもそうですけど、こうやって一本桜を通してみんなの輪が広がっていくわけですよね。星の撮影をしているときに知らない人と話して仲良くなったりして、ここが憩いの場、交流の場になっていると感じます。それが高島さんがやってきたことだったので、今は私たちが受け継いでやっていかなくちゃいけないなと思っています」

大切な場所だからこそ、観桜や撮影で訪れる人にはマナーを守ってほしいと守る会の皆さんは願っています。なかには桜のすぐそばまで車を乗り入れたり、大人数で撮影に来て長時間ベストポジションを陣取ったり、ゴミを捨てていったりする人も残念ながらいるといいます。

「ここは個人所有の敷地で、私たち守る会がボランティアで管理しています。マナーを守って撮影していただきたいですし、写真をSNSなどで公開する場合も『私有地なのでマナーを守ってくださいね』とひと言付け加えていただけるとありがたいですね」(渡辺さん)

「いつまでできるかわからないけれど、守れるかぎりはこの桜の手入れをしていきたいと思っています」と松本さん。桧原の一本桜と、そこから広がる交流の輪を愛した高島さんの想いを受け継ぎ、守る会の皆さんはこれからもこの場所を大切に守っていきます。

<2024年4月26日取材>

桧原の一本桜
■所在地:福島県耶麻郡北塩原村桧原
■例年の見頃:5月上旬~中旬
■ホームページ

裏磐梯観光協会